「決意の最終楽章 後編」に見る南中カルテット

純粋に物語の行く末を見届けたく、映像化を待たずとしてめくった『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章』。藪から南中カルテッでした。この記事では意外にも出番の多かった四人と印象的なシーンについての感想と考察を述べていきます。コンクールの結果など物語の結末には触れておりませんが、未読の方はご注意ください。

 

 

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ネタバレプロテクター

 

 

 

目次 

 

 

  1. 南中メンバー登場シーンのあらすじ

(↑の番号消し方わからない)

地区大会突破後、変わらず練習を続けるいつもの日の合奏後、昨年度の部長吉川優子と副部長中川夏紀が突如アイスの差し入れを引っ提げてやってきます。彼女らは高坂麗奈黄前久美子を、唯一部活が休みになる期間に行われるみぞれの通う音楽大学のコンサートへと招待するのでした。当日演奏された曲は「ダフニスとクロエ」。音大の一年生にしてソリストとして素敵な演奏を披露しました。その後希美との再会を果たし、「みんな、来てくれてありがとう」というみぞれの一言で締めくくられるのでした。

 

 

「ダフニスとクロエ」

 久美子が三年生なった際に現れた黒船、黒江真由の名の由来となっている曲です。

 

“既にお気付きの方も多いと思いますが、真由の名前は「ダフニスとクロエ」のクロエからとっています。黄前久美子の「黄」と黒江真由の「黒」は合わせると警戒色、なんてお遊び的な意味もあったりします。” (響け! ユーフォニアム 宝島社特設サイト 三年生編完結記念 武田綾乃さん 特別メッセージ より)

 

ここに単なる名前の伏線回収以外の意図を感じずには僕はいられません。古典芸術の教養が全く無いなりに調べたところ、吹奏楽においてよく演奏されるのは第2組曲であるようです。曲目を見てみると、

  1. 夜明け
  2. パントマイム
  3. 全員の踊り

ん?

「全員の踊り」!?

これは完全に妄想なのですが、演奏されたのはこの曲であってほしいです。あらすじで述べた、みぞれの言葉の「みんな」は後述するように明らかに成長がみられるシーンなのですが、南中カルテットのメンバー「全員」を意識させるよう武田先生が仕掛けた描写でもあると信じています。それぞれの想いはまだ複雑なままの人物もいますが、ひとまずこうして再開できたのは本当にうれしいです。これからも四人で集まってほしい。

 

余談ですが、一瞬傘木希美視点でこのシーンを見た際「夜明け」が演奏されたとする説もありなのかなとは考えました。ただ「夜明け」という言葉と曲で表現できるほど彼女の心情は単純ではないのかなと。

 

 

 南中カルテットメンバーと「青い鳥

 この一連のシーン、みぞれ以外の三人には至る所で「鳥」に関する描写が用いられています。僕が推測した各メンバーと「鳥」の比喩の意図するもの(と愛くるしさ)を述べていきます。

 

中川夏紀

“黒いシャツから垂れるネクタイは、よく見ると青い鳥の柄だった。”

(決意の最終楽章 後編 No. 824(kindleでのページ番号。以下の引用も同様))

 

夏紀は大学生活楽しく過ごしていそうですよね。優子や希美ほど複雑な、みぞれとの関係性における糸のもつれは少ない彼女なのでハッキリと青い鳥なのでしょう。特別他に言う必要はないと思います。

 

ところで全く関係ないのですが、夏紀って犬歯がチャームポイントらしいです(No. 466)。短編集と最終楽章以外はかなり原作流し読みなので見落としてる可能性はありますが初の設定かな。響け!ユーフォニアムで一番感情移入してしまう子なのですが更に自分の性癖にぶっ刺さってしまいました。

 

 

吉川優子

‘”色を帯びた優子の髪を留めるバレッタには、羽ばたく鳥の形を模した銀色のパーツが付けられていた。” (決意の最終楽章 後編 No. 832)

 

彼女もかつて、「いつもみぞれの演奏は希美のためにあったんだ」と、自分の気持ちは一方通行だったのかと感じていたわけですが、「ホントの話 旅立つ君の背を見上げる」でそのモヤモヤは晴れています。死ぬほど偶然(笑)で夏紀と同じ大学でガールズバンドを結成した優子。彼女もまた大学で羽を伸ばしていることでしょう(自由を謳歌しているここと青い鳥として羽ばたいていることのダブルミーニング)。

バレッタのやり取りについては希美の欄で考察します。

 

 

傘木希美

“ためらいがちに伸ばされた希美の手が、バレッタに触れる直前、弾かれたように後ろに下がった。はっきりと意志を感じさせる動きで、希美は首を横に振る。

「いいよ。私はこのままで。」

「本当に?」

「うん。これが今の私だしね。」”

(決意の最終楽章 後編 No. 869)

 

本当に傘木希美は難しい。でもいろんな解釈があっていいと思うので自分なりに見えたものを書いていきます。本当は上の引用以外にも重要なセリフと描写が他にもありますが全て引用していたらキリがないので補足しながら流れを追っていきます。

 

・みぞれコンサート前

照れと苦さが混ざった笑みで久美子と麗奈にフルートを続けていると打ち明けるシーン。私は正直に言うと、安心しました。「リズと青い鳥」フルートで自分には届かないものがあると気づいてしまったわけですが、「フルートが好き」という希美の根本は残り続けていたのだなと感じました。

 

NBA選手になるために全員がバスケットボールをしているわけではありません。相当の努力をして才能が足りなかったことに気づいても、それがフルートを辞める理由にならなかったところに、傘木希美の良さを感じます。

 

・みぞれコンサート後

長くなるので簡単に私に見えた希美を先に述べておきます。

 

演奏を聴いて昔の挫折を思い出す

優子の中の「あなただって青い鳥」が差し伸べられる

私なりの「今」を生きる宣言をする

 

「ソロ堂々と吹いてたし」に混じる、感慨以外の何かについては、圧倒的な演奏を目の前にして挫折したことの回想だったのかなと考えました。今でこそみぞれと別の大学に進学した希美は、少しずつ、でも確実に立ち直っているはずです。しかし後ろを振り返ると歩んだ道が残っているのが人生というもので、立派なソロを吹くみぞれを再び見るということは、「過去」をまた振り返ることにつながります。その後のセリフの「懐かしかった」は、みぞれに憧れが裏返った感情を抱いてしまったことを思い出してしまったのでしょう。

 

それを悟ってか、優子は鳥の形を模したバレッタを希美に渡そうとします。サークルこそ異なるものの同じ大学に進んでいるので、今の生活も楽しんでいる姿を優子は見届けているはずです。どこか浮かない様子を見せる希美にたいして「あなただって、青い鳥だよ」と優子は言いたかったのではないでしょうか。ここの青い鳥は誰かのあこがれになりえる、立派な人間だよ、というニュアンスです。

 

そんなお節介な優子のバレッタから希美は手を引きました。僕は今の希美は「地に足がついている」と表現したいです。かつての彼女にこの言葉を当てはめるには余りに残酷だったでしょう。しかし空を飛べなくても、部活復帰の時もリズの時も、何度だって立ち上がってきたその足が希美にはあります。みぞれにとってそうであるように、ある人から見ると美しいその足があるのです。かつて自分が望んだ特別でなくても、色んな個性が絡み合って自分はオンリーワンの存在である。過去に感じたことも全部ひっくるめて今の私がある、それが希美のアイデンティティーであり、生き方なのではないでしょうか。引用部分の希美の行動と返事は、優子の救いの手がなくても問題ないよ、という示唆だったのではないかと考察しました(もはや願望)。

 

鎧塚みぞれ

“「みんな、来てくれてありがとう」

響いた声は、ひどく澄んでいた。耳馴染みのある声が、なぜだか無性に懐かしかった。”

(決意の最終楽章 後編 No. 885)

 

彼女は最早「青い鳥」の比喩を必要としないくらい、新しい世界で羽ばたいています。音大でも新入生コンサートでソロを任され、立派に演奏しています。そして何よりも、引用部分での感謝の目的語が「みんな」なんですよ。多くの人にとっては当たり前でも、最愛の人のみならず周りの友人もしっかりと見えていることって、大きな成長だと思うんですよね。

三人とは別の大学に行き、圧倒的成長を遂げているわけですが、それは彼女が別の人間になったわけではありません。口数が少ないこと。希美に褒められただけで頬が赤くなること。希美を見ただけで瞳が大きくなること。いい意味でみぞれはみぞれのままで、それを思い出した。という描写ですね。

 

 “それだけで、みぞれの頬はますます赤みを増した。睫毛に縁取られた両目は、満天の星のように喜びの光に満ちている。”

(決意の最終楽章 後編 No. 882)

 

ところで、このまま1年、2年と時間が過ぎていったとき、みぞれの感情オーボエの燃料って切れないのかな…という疑問が個人的に残っています。オーボエ続ける宣言をしたとは言え、音楽の原点に希美があることに変わりはありません。このままプロとして、特別として活動するには、希美という燃料を補給するか、音楽をする動機を大きく変化させなければいけないでしょう。人間の心は疎遠になっても何十年とその人のことを思い続けることができるほど強くはありません。

僕はのぞみぞは添い遂げる派なのですが、これが添い遂げに向かう重要な起点かな~と妄想してます。

 

 

(なかよし川)

同じ大学に入って、なんか前よりイチャイチャしている気がするなかよし川。最高です。以下なかよし川の戯れについて時系列で感想述べます。

 

・おそろいのアクセサリー

どんなデザインのものかは明記されていませんが、どっちが選んだのか、どっちが一緒に付けて高校行こうよと言い出したのか、妄想が止まりません。予定されている久美子三年生編でどんなアクセサリーを身に付けているか見届けるまで死ねません。

 

・ガールズバンド

とんでもない公式設定発表。この本が出てる以前からなかよし川ファンだった人、該当ページを読んで過呼吸になっていないか心配になります。ボーカル優子のベースが夏紀。このブログのコメント欄では皆さんのなかよし川にカバーしてほしい曲を募集しております。ちなみに僕は

www.youtube.com

 

あとたまに洋楽とか英語の歌詞の曲は夏紀が魅せるとかも最高ですよね。「songbirds」なんてうたわれた日には。三人の大学文化祭にみぞれが来たりなかよし川バンドが演奏したりする話短編集にあるといいなあ。

他にも小競り合いの最中に久美子と麗奈に気づき、夏紀の脇腹を肘でつんつんする優子など、なかよし川が大好きな自分にとっては最高のシーンでした。Forever なかよし川。